--/--/--    スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

赤黒い死砂の大地は歩くたびにシャリシャリと崩れ砂埃となって舞い上がる。

このあたりは地下流砂の砂脈が複雑に入り組んでいて、部族の者でも気軽には立ち入らない。

その不毛の小高い丘を少年は足元を気にすることもなく、古ぼけた砂井戸を目指しすたすたと歩いていた。

「ちぇっ、またあのポンコツ、目詰まりしやがって」

丘の脇を怒涛のように流れる流砂の音が轟々と響くなか、舌打ちをしながらつぶやいた言葉は足元から立ち上がる砂煙とともに風に消えてゆくばかりだった。

少年の一族にしかわからない複雑な道筋を通り、採掘場の隅にある古い井戸にたどり着いたのは小一時間も過ぎた頃だろうか。

古井戸の電源を落としたあと保護シールドを解除し、送出ポッドにはめ込まれた繋ぎを外すと案の定、死砂の塊が二層となっているパイプの中に凝り固まっていた。



「あんな古井戸、もうやめちまえばいいのに」

「何をゆうサレン、今の我らが繁栄はあの古井戸がもたらしたものぞ、一族の次なる長となるものがそのようなことを」

周期的に繰り返される今朝のような問答。

新世代の一員であるサレンにとっては、無駄なことにしか思えなかった。

確かに流砂の大河に点々と浮かぶ無数もの丘と呼ばれる場所に、橋をかけ地下砂脈を探し当て流砂の恩恵をもたらしたのは遠い祖先の尊敬すべ勇気ではあったとは思うのだが。

死砂の大陸で細々と暮らす多くのこの星の住民に限りない反映の礎をもたらしたのも揺るぎない事実ではあったのだが。

「サレン、父様の言葉は偉大なる祖先の教えが含まれているのですよ。長としての勤めを果たさなければならない貴方の修行でもあるのですから」

母であるデルタの慰めももう聞き飽きていた。

「大河の上に浮遊して直接流砂を取り込めるようになったこの時代に、あれが何の意味があるんだ」

そう言って飛び出るように家を出てきた事が思い出された。

砂脈を感じ砂流を読み取るための術を、気の遠くなるような作業を続けるうちに学び取っていたことはわかるが、それさえもいつの日にかは新たなイノベーションに取って代わるだろうとサレンは確信していたのだった。

それをもたらすのが自分を含めたニュウエイジの定めとも感じていたからであったのだが。
スポンサーサイト

生物も疎らな死砂の大地、全てを押し流す流砂の大河となにものも侵食してしまう荒れ狂う流砂の海のこの星は、銀河半世紀ほど前は人類はもとより知的生物など住むこともかなわない空虚の星だった。

AL銀河の中でも辺境に位置する暗陽系の第4惑星であるこの惑星レソルは、その名の元となった神話の神の憂鬱な横顔のように蒼褪めた星であり、放射性活性鉱砂の毒々しいまでの青い海に浮かぶ暗い双眸にも似た二つの黒い死砂の大陸しかなかった。

この屍のような星の何人も近寄らせなかった流砂の使い道に、サレンの遠い先祖であるDr.ゾレンが狂信とも思える勇気を持って降り立ったのがこの星の歴史の始まりである。

恒星間移動艇の外装をも侵食し溶かしてしまう狂砂の大海原に削られることなく浮かぶ大地にヒントを得て、研究が始まったのだ。

幾年もの失敗の後に、死砂をもとに合成されたセラミカルポッドの開発に成功し持ち運び不能だった流砂を万能溶剤として使う道を切り開いたのだった。

あらゆる合金あらゆる物質を溶かす溶剤は銀河中に恩恵をもたらし、ゾレンは莫大な富を得たが、そのまま僅かばかりの親族とともにこの星にとどまり研究を続ける余生を過ごした。

揮発することなく変わらぬ溶性を続ける流砂の利益に目をつけた大手のコングロマリットであるLXXなどは、ゾレンの開発したセラミカルポッドに変わる物の研究に着手を始めたが、約300デイズでその溶性の元となる放射性物質を失ってしまう流砂の特性に気づき断念してしまった。

その利用性に銀河中が乱舞し流砂が多くの産業に不可欠になってしまった間に、帝国の名において全ての流砂の採掘権はゾレンとその一族が牛耳ることとなっていた。

そして一族の繁栄は侵されることなく半世紀が過ぎていったのである。
11/17/2013    騒めく砂

パイプの詰まりを除去し送出ポッドの具合をみようとサレンは古井戸を稼働させることにした。

「ん?」

不意に空を見上げるサレン。

ブーンとシールドが貼り直される音に混じりながら聞こえ続ける流砂の怒号を感じたからだ。

流砂の微かな乱れを、流砂のざわつきを。

見上げた紫苑に染まる空に揺らぎが始まる。

粒子の集約と実体化、異空間から解き放たれた船だ。

その見かけたこともない船に流砂がざわつく。

立ち上る飛沫が捕獲せんとばかりに伸びだしたとたん船は宙港目指し飛んでいった。

「…なんだ?」

少年はざわつきがやまない流砂のように心を乱しながら、宙港近くの部落へと駆け出して行った。

部落のほぼ真ん中に建てられた族長の館に帰り着いたのは小一時間も経ってからだった。

「お帰りなさいませ」との言葉と共に手渡された儀礼用の装束に、サレンはざわつきが高ぶるのを感じていた。

着替えをすませ族長と客人の待つであろうレセプションスペースに入ると、父である族長に抱き寄せられた。

「これが不肖の倅です、ほら挨拶をしないか」

滅多にされないその仕草に戸惑いながらも、見覚えのない風変わりな客に名を名乗った。

「サレン・デロ・ゾレナーです」

「キミが次期族長のサレン君なんだ、私はステラ、LXXの使いよ」

鴇色の髪を持つ女性がにこやかに応えを返してくれた。

「あのう、貴方は?」

背後に佇む黙ったままの黒装束の男にサレンが声をかける。

「ああ、俺はただのボデーガードだ…」そう答えた男に女性が睨みつけた。

「名前を聞かれてるのよ、ファン」

「ああ…なら、ファングだ、面倒だったらDDとでも呼んでくれ」

面倒くさげな男の答え。

「まあ、挨拶はともかく今回の要件を」

いつになく上機嫌の父の声にサレンは、LXXとゆう上客の名を思い出していた。

「実はラボの件なんですけど、是非我が社の実験場を現地にと、あらかじめDr.ヴィヴァームス よりの言伝があったかと思いますが」

途端に父の顔が曇った。

「その件はお断りしたはずですが」

「そこをなんとかできないでしょうか?」

「流砂の扱いは…素人には…いや失礼、ここでくどくど言っても始まりませんな。サレン
竜を此処へ」

不意にそう言われて成り行きを見守っていただけのサレンはビクッとしながら返事もそこそこに部屋を飛び出していった。

「これからお見せします竜は、皆さまが流砂として知っておられるものの原液にあたるもので未だ怒りを沈めてはないものであります。この星を覆い尽くす不可侵の荒ぶる海と揺るぎなき大河を生み出すものであり、全てを拒み全てを焼き尽くす竜の如き存在なのです」

少年が退席したあと、族長による長い弁舌が始まった。

「竜って奴は何処も同じだな…」

誰にゆうわけでもなく黒装束の男がつぶやく。


「お待たせしました」

族長の弁舌に皆が退屈し始めた頃、少年が重そうなケースをワゴンに載せて舞い戻ってきた。

「これは井戸から組み上げたばかりのもので、量的には少ないけど、危険ですから不用意に近づかないでください」

少年は注意を促し、ドラム缶を薄切りにしたような送出ポッドの上蓋を開けた。

「わあ、凄く綺麗」

女が声をあげる。

ポッドの中には禍々しいまでの青く光る液状のものがさざめいていた。

中のものを指差しながら少年の説明が続く。

「この液体にも見えるものは実は細かい活性砂で、青い光は放射性物質によるものです。
さざめきは他の物質による刺激で異物が近づくほどにさざめきはざわめきにやがて…」

「ほんとだ、すごーい」女が顔を近づけると、砂は荒ぶるようにざわめきだす。

「あっ、危ない」

激しく波うちを始めた砂が隆起し、女に向けてするすると伸び始めた。

少年が、女を突き飛ばし庇うように覆いかぶさる。

「きゃっ」声をあげる女の上で少年は竜の攻撃に身を固くする。

「ちっ」

男が声を荒げた。

恐る恐る振り返ると、片袖が焼け爛れた男の腕が見える。

「大丈夫か?ステラ!」

どうやら男が襲いかかる竜の鎌首を片手で払いのけようとしたらしい。

「ファングさん!あなたこそその腕」

少年の心配そうな問いかけに男が応える。

「ああ、大丈夫だ竜が竜に喰われちまうのは洒落になんねえからな、グローブと片袖は焼けちまったけどよ」

鈍く銀色に光る片腕を振りながら男が忌々しげに応えを返してきた。
11/23/2013    二人は一人
ちょっとした騒ぎのあと少年は、食事の用意ができたと告げるため来訪者のためにあてがわれた部屋の前で途方に暮れていた。

「Dr.、何故ステラのままで来たんだ」

「そのためのボディガードだ、いくらかは制御できてもこればかりは」言い争う声がする。

ノックも声も届かないようだ。

意を決した少年は失礼しますと言いながらドアをあけてみた。

「なんか用か坊主」愛想よく黒装束の男が問いかけた。

「あの、食事の用意ができましたので…」

少年の言葉に見知らぬ女性が応える。

「サレンくんだったな先程は助かった」

「えっ?あの…ステラ…さんは?」

「私は、Dr.ヴィヴァームス、ステラは私だ。私のDPだ、肉体的にも別人格なわけだがね」

「おいDr.そんなこと言っちまって」

「例の事件からこれはLXXの公認の公式見解だ」

男はやや呆れた顔で少年に向けて肩をすくめてみせた。

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。