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02/20/2012    故郷  1
少し黄ばんだ障子戸を開けると、縁側からの日差しが差し込んでくる。

日中とはいえ昔ながらの日本家屋は薄暗いものだ。

部屋に立ちこもる埃くささを追い払おうと、窓も麩も開けてはみたが、寒風を招き入れてもさほどはかわらない。

年月の成せるものなのか、それとも元々この家が宿していたものなのか。

半年ぶりに戻る生家はいつものように静まりかえっていて、同じ様相で私を迎えてくれる。

きっとこの心なしか漂う誇りくささも、この古びた家が本来から持つものなのだろう。

押入れの座布団を取り出し痛む腰を落ち着けて明かりをつけることにすると、ぶら下がった蛍光灯が時折瞬きをし始める。

替えはあっただろうか、いずれにしても後にすればいいことだ。また後で出向いたときにでもすれば良いだろう。

卓だけが置かれた部屋の中はガランとしていて寂しいものだが、普段は誰も住まないとあっては致し方ない。

置いたままの荷物はそのままで、一息ついてから掃除でも始めることにした。



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02/21/2012    故郷  2
少々はしたないが、誰も居ない事をいいことに脚を投げ出してみる。

縁側の向こうの庭を眺めると、ちらほらと雑草が生えてることに気が付いた。

この割と広めの庭に話し声が途絶えてから十数年あまり。立ちすくんでいた木々も、手入れの大変さと隣家からの苦情もあって今はもうない。

置石とガラクタが無言で隅に転がっているだけだ。

日が落ちる前にまず雑草を摘んでおこうか。家の中の掃除はそれからでもいい。

片付けるものなどないし、二三日寝泊りする部屋が布団を引ける程度に掃き込めば澄む事だ


重い腰をあげ台所に向かう、先だって頼んでおいたガスも水道もどうやらちゃんと使えるようだ。

食器だなから湯飲みと急須を取り出して、薬罐で湯を沸かしてるあいだ茶筒を探すと昨年末にいただいた新茶がみつかった。

都会でも同じものが売られてはいるが味と香りが違う。

清流の恵みを授かるこの地ならではのせいなのか。

水道水とはいえ水のおいしさが確かに違うから。

卓にもどり香りたつ茶を含むと懐かしい味が懐かしい思い出を呼び起こす気がしてきた。


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02/23/2012    故郷  3
都会と違って時が止まっているようなこの片田舎の町でも、確実に時は流れているようだ。

お化け屋敷の子とはやしたてられた幼い日の息子を悩ませた近所の子らも、もういい歳なのだろう。

この辺りでは大勢の子らがはしゃぎ回っていたものだが、今では年寄りの姿ぐらいしか見かけない。

この古い家をなんとか守ろうとしてきた長年の思いも年月の重みですっかりと薄まってしまったようだ。

ひとりで歩きまわれるのも、あと数年ぐらいかもしれない。所詮わたしもあの口ばかり達者だった息子の嫁と変わりなかったのかもしれない。

両親を亡くし仕事の関係とはいえ、それぞれこの家をでてしまった兄弟たちに対する意地だけがこの家をとどめていたのだろうか。

家に縛られ思い出に取り付かれ夫の呆れ顔も気にせず勇んでたびたび舞い戻ってきたのは、末娘ゆえの思い入れだったのだろうか。

喜んでついてきた幼い息子も、しぶしぶとついてきた息子の嫁もすっかりと歳をとった今では、私ばかりが遠いあの頃のままという訳にもいかないようだ。

掃除をする手足もしんどく思える今は考え時かもしれない。

もう思い出の中にしまっておくべきかもしれない。

都会に戻ったら相談してみよう。優しく微笑むばかりの夫の墓前に相談を。

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04/05/2012    故郷   4
「ただいま、お母様」

手荷物を抱えて、息子の嫁が戻ってきた。

「あら早かったわね、おざいしょのお兄さんは元気だったの?」

「ええ、なんとか」

彼女は笑いながら応えた。

ここ何年かは彼女と共に生家に出向いている。同郷でもある彼女の兄がこの街に住んでいるのも何かの縁なのだろう。

手荷物を下ろし自分でお茶をいれ一息ついて彼女は先ほどの続きをはじめる。

「元気は元気でしたけど、お医者さまにお酒を止められたらしくずいぶん落ち込んでいましたわ」

「それは可哀そうね」

「いいんですよ、兄は若いときから出歩いてばかりでしたから」

「それじゃあ退屈ね」

「そう思って、いい機会だから顔を出したりするんですよ」

屈託なく話をする彼女を見ると、嗚呼変わらないなと思う。

勝気で積極的な彼女が嫁に来たばかりの頃は、苦手意識もずいぶんあり喧嘩も絶えなかったのだがこの歳になりお互いに本音で話せるようになれば、息子よりも行動力があり頭の回転も良い彼女のことをいつしか頼りにするようになっていた。


「明日はお兄さんはご在宅?挨拶もかねて少し相談があるのだけど」

「…」

彼女は急に黙り込み、やがて静かな声で問いかけた。

「…それじゃあお母様、決心なされたのですね…」

「まあ、そんな感じかしら」やはり彼女は頭の回転が速い。

「兄には後で、連絡を入れます。でも寂しいですよね」

「それは仕方ないわね、私ももう足腰がだめだしね。あの人もきっと賛成してくれるはずだから」

「じゃあ、帰ったらお墓参りも行かないとですね」

「そうねあの人の好きだった果物でももってね」

いつしか辺りは暗くなっており、二人で眺めていた庭の木に月明かりが静かに寂しげにさしはじめていた。



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