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「す、すいません。別に私は…」ゆり子は言葉に詰まってしまった。その青年の人間離れした笑みと言葉に。

「ああ、すいません。ゆり子さんとお呼びしたほうがいいですか?当、宵闇堂はお客様のお望みの物を余すことなく揃えております。お探しのお望みの本なども闇に潜めて並べてございますのでなんなりと」青年は躊躇することなく言葉を続け、在庫表だろうか分厚く嵩張る大きな帳簿らしきものを手に取った。

「あ、はい。ゆり子で構わないです…」

「自己紹介が遅れてしまいました。小生は、新月深夜の限定営業<宵闇堂>の店主あおやみと申す若輩ものです。どうかご愛顧を」

「あ、はい。あおやみさんですね、よろしくお願いします」思わず応えてしまってからゆり子は、自分の答えが可笑しくて笑い出してしまった。現実にはありえそうもない言葉を並び立てるあおやみに、丁重に挨拶してしまった自分にである。

まったくそんなゆり子を気にもせずあおやみは言葉を続ける。

「そうですねえ、ゆり子さんのお探しの本はどれも普通に書店で扱っていますね。もちろんこちらにも揃えてはありますが。うちは少々お高くなりますので」

「そうなんですか?」

「これは秘密なのですが、いろんな物を揃えるにあたりまして何かと入用で…」あおやみは、誰もいないとゆうのに辺りを気にしながら声を潜めてゆり子の問いに応える。

「そうそう、取って置きと致しましては、お望みの本<WEB作家ゆかの出版物>なら新刊の棚横の出版予定の棚に何冊か現れ始めておりますけどね」

「えっ?今なんて…」あおやみの言葉にゆり子は驚きを隠せずに聞き返してしまった。




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ゆかは、ゆり子が使ってるペンネームだった。

会社勤めの傍ら読書好きが高じて、ウエブサイトに小説などを時々あげていた。

サイトで開催される募集などにも投稿もしている。

作家までを夢見ているわけではないが、多くの人に自分の話を読んでもらえることはよろこびに感じている。

「新刊の棚はアチラの奥まったところですが」

あおやみの薦めるままに、ゆり子はふらふらと奥へと進む。

闇に紛れてよくみえなかったそこには、近づけば確かに新刊と書かれた張り紙がしてある。

たどたどしい文字ではあったのだが。

「そうその棚の横にも張り紙がしてあるはずです。字が汚いのはご勘弁を、文字になれないものですから。」


ゆり子はもう気にもならなかった。

あおやみが書いたであろう張り紙の奇妙な文字も、意味深げな言葉も。


「…ああっ」思わずため息がもれる。

闇に霞んだ古めかしい書棚には、確かにゆかの名を記した書籍が何冊か並んでいた。


「お手にとっても構いませんよ。なんだったらお持ち帰りも。ご来店のいわゆるおまけとなります」

ゆり子が手に取った一冊の本には、今まさにサイトにて連載執筆中の恋愛小説< 流されて… >のタイトルが記されていた。



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自宅に戻るまでの僅かな間も、ゆり子は手にした本を開く事はなかった。

内容など空で応えられるからだ。

キャラクターの細かい設定など小説とは無縁の事柄までゆり子の頭の中には焼きついてるほどだった。

部屋に戻り頂いた本を大事に棚に立てかけ、いつものようにパソコンを開いてサイトに向かう。

コメントや感想の返信を行うためだった。

ふと思いサイトのトップにと向かう。書籍化募集のページだった。

色々と悩みついぞ申し込んだ事はなかったが、手にしていた本の重みが押してくれる気がしたからだった。

決して重いとはいえない薄めの本ではあったが。

人気投票にエントリーをし、一位もしくはサイト管理者の目に留まれば書籍化へそんな内容だった。

あの怪しげな店の若い店主の笑顔を思い出す。今夜の事は夢だったような気もするが、夢で夢が叶うなら。

棚に置かれた幻に包まれたようなぼやけ気味のこの本も確かなリアルなものになるかもしれない。

申し込みを完了しゆり子は、はやる気持ちのまま床につくこととした。

そして、夢の中のアノ店の中で、ゆり子は猫の鳴き声を聞いた気がしていた。


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04/12/2012    恋文 一項 紅闇
「やっぱりちゃんとあったわ」

覚えのある古い引き戸を開けてみると、話し声が聞こえてきた。

「今晩は」

声をかけ話し声のする奥へとゆり子が向かおうとした瞬間に、何かが目の前に現れた。

「いらっしゃいませ、宵闇堂に」

目の前に舞い降りてきたようなそれは、白い着物姿の女性で鳴く様な声でゆり子に微笑んだ。


「あっ、どうも…」

「店主は接客中なので、少々お待ちしていただける?可愛らしいお嬢さん」

とまどうゆり子に血のように真っ赤な口がこたえる。


「あっ、はい…」

「私はあかやみ、店主とは縁あって時々お店の手伝いなどしてるのよ」

「あおやみさんの、…お知り合いですか?」

顔に出てしまっていたのだろう。

その言葉に笑いながらあかやみと名乗る美しい女性が応える。

「ご心配なくそんなんじゃないわ、ゆり子さん」

「どうしてその名を…」


「いえ、彼が今夜辺りに大切なお客様が来るはずだからって」

「大切な?」

「そう、優しい文を綴るゆり子さんとゆう可愛いお嬢さんがくるはずだからってね」

「優しいだなんて、可愛いだなんてとんでもないです…」

ゆり子は赤面しているのも構わずにこたえる。

「あら、彼がそうゆったのよ。見てすぐに私も納得がいったけどね」

「そんなあ」

その応えにゆり子は声に詰まってしまった。


「そうそう、こんなところで待たせるのもなんだわね、私と一緒に来れば面白いものが見れるわよ気づかれずに」

「えっ、どうゆうことですか?」

ゆり子は手をつかまれ奥へと連れて行かれる。

客の対応をしていたあおやみがちらりとゆり子たちを一瞥した他は、変わりなく話を進められてゆく。

懸命に話を続ける客は気づいていないようだ。

二人がすぐ傍にたっているとゆうのに。

「ねっ、気づかれてないでしょ?みえていないのよ。私の紅い闇でね」



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「確かにお聞きしたとおりでございます…」記憶とは違う冷たい視線で主人は応える。

「にわかには、信じられない」不審げな若い客の言葉に主人あおやみが言葉を返している。

「うちの店、ここにあるフミは同じもの。どれも本物と同じものです」


「ならば、お見せいたしましょう…」


「ほら、はじめるみたいよ」淡々としたあおやみの言葉に、あかやみと名乗る女性がゆり子に向かって囁いた。


「この紙にお客様のお好きな文字をお書きください。何でも構いません。数字でも」そう言って店の主人は一枚の紙を差し出した。

「お調べになっていただいて結構です。その紙はなんの変哲もないただの紙切れですので」怪訝そうな表情のまま客である若い男は紙に何かを書き込んだ。

「そのままお持ちになってください」

そう言ったあおやみの手に闇が集まり形となってゆく。それは次第にはっきりと見え始め、やがて一枚の紙となった。男に手渡したものと寸分も違わないものにと。


「えっ?」思わずゆり子は小さく叫んだ。


「あれが、あおやみの力。書かれたものを写し出す闇の力なのよ」傍らであかやみが呟く。


「お客様と同じものがここに。書かれているのは…数字の七。漢数字の七ですね」

その言葉に男が答える驚きの顔で。

「たっ確かに、手品のようだ」

「手品などではありません。その紙を破いてみてくれますか?」あおやみの言葉通りに紙が破かれると、不思議なことに主人の手にした紙も破られてゆく。眼に見えない手によって。

「うっ」更に男の顔色が変わる。

「二つは一つ同じもの。それが破れればこれも破れる。その皿に置いて見て下さい、危ないので」

言われるままに男は、指差された皿に破いた紙をのせてみた。

「二つは一つ同じサダメ。これが灰になれば…」そう言った主人の手にした紙がふいに燃えあがる。

「あっ!えっ?」事の次第をみていたゆり子が叫ぶ。

見る見るうちに燃え尽きる紙。

「それも同じに…」

言い終えたあおやみの手にした紙は灰となり、皿の上の紙もまた同じ運命を辿った。

「…」眼を見張った男は、言葉に詰まったままだった。

「二つは一つ同じもの、同じサダメを辿るものなのです」

じっと燃え尽きた灰ををみつめるあおやみの瞳は、何故かゆり子には哀しげにみえて心が痛むのであった。

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05/20/2012    恋文 三項 廻る糸車
「では、僕の望みのものも…」声を荒げ男は店主にと詰め寄る。

「はい、確かに…」哀しげな表情のあおやみの言葉。

「金なら幾らでも出す。是非にゆずってくれ!」

勢い込む男には、あおやみの様子など映ってはいないようだった。

「ここは、ふみを売る店なので…」

多すぎると断るあおやみの手に札束を握らせ、ひったくるようにふみの束を男は受け取る。

「これで、これで僕の想いも…」

古ぼけたふみの束を握り締める男に、あおやみが淡々と言葉をかける。

「言葉は儚く散り逝くものその想いも同じく消え逝く定め、されど書かれたふみならば想いは残りサダメは絡み運命の糸車を廻すもの、その想いをサダメを、どうかどうか大切に…」

「嗚呼、わかってるとも。口約束ではなく書かれた物の重みをね」心あらずといった面持ちで男が店から出て行った。

その様子を見ていた二人に、あおやみが声をかける。

「もう、いいでしょう。茶番は終わりましたから」

ふいに姿を現す二人に動じる事もなくあおやみが言葉を続ける。

「これでまた一つ想いが消えてしまう」相変わらずあおやみの声は哀しげに響く。

何も応えることのできないゆり子の代わりにあかやみが口を開く。

「わかっているなら、渡さなければいいのに」

少し不満げな口調にゆり子には聞こえた。


「それが、サダメだから。糸車は誰にも止められない」


心配そうに二人の会話を聞くだけのゆり子に、あおやみがなにやら紙を差し出した。

「これは…」

ゆり子の問いにあおやみはこう応える。

「あのふみの束の中の一つです。彼の望みではないので抜き取っておきました」

「これを読んでも構わないの?」ゆり子はおそるおそる尋ねてみる。

「ええ、たぶんこのふみは読まれることなく消え逝く運命でしょうから…。その想いを汲み取ってあげないと…」

あおやみの言葉に促され、先ほどみたふみの束とは別の新しげな封筒の中身をゆり子は読み始めた。

貴方様のお願いを私には叶える事ができません。貴方様の想いの詰まった数々の手紙を私にはこの手で処分などできません。
おっしゃるように避けられないご事情があるのでしょう。
私の募る想いも貴方様の変わらぬ気持ちも心では承知できるのにどうしてもできないのです。
どうか、この手紙とご一緒に貴方様の手で、この想いをお仕舞いくださいませ。
貴方様のご結婚を祝福する事は、心の狭い私にはできかねますが。貴方様のお幸せを…


ここまで読み進めたときに、ふいに白い手がふみを取り上げた。

「危ないわ!」

そういったあかやみの手の中のものは、突然に炎をあげ燃え出した。

声も出せずに仰天してるゆり子をただ哀しげにあおやみは見つめている。

いや、ふみの方を見ていただけかもしれない。




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宵闇堂の前に止めてあった車は、街を抜け海辺へと向かう。

真夜中の河口付近は人影も物影もなかった。

男は手早く先程の束を置き、辺りを伺い念入りに灯油をかけ火を放つ。

「あの女、手紙を処分するように言ったのに返事もよこさない。念のためネットで噂のあの店に行って確かめれば案の定だ。こいつを燃やしちまえば、オレの過去は綺麗に真っ白とかわる。なに、あの女ごと燃えちまえば願ったり叶ったりだ」

燃え上がる手紙の前で男の高笑いが続く。




「ど、どうゆうこと?」

やっと声の出たゆり子にあかやみが応える。

「見ての通りよ、燃やされてしまったあの手紙の主の自らの手によってね」

「なぜ…」

「なぜかは知らないけど、そのことによってあの男の住んでいた部屋も焼けて住む所も失い火事を出した事で信用も失うことになるわ。たぶん予定されていた結婚話もなくなるかもね」

あかやみは見てきたようにゆり子に答える。

ふいに、あおやみが哀しげな瞳でゆり子に告げた。

「なぜかは、それが移ろうものだから…、人の想いや口から出る言葉など、所詮虚ろで移り行くものだから…」

「そう、だからその移り行く儚いものを留めたままのフミを集めるの。この人は寂しがりやだから…」

そんな二人にゆり子は頷く事さえできないでいた。


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手をかけてみると、古ぼけた引き戸は鍵も掛かっておらず簡単に音もなく開いた。

思ったとおりに話し声は、
店の中から聴こえてくるようだった。

最終電車も通り過ぎたこんな時間、駅裏の狭い路地には人の気配などまるでない。

残業で帰りの遅くなったゆり子が、帰宅を急いでいたのにもかかわらず古びた書店の前で何故か立ち止まったのも、話し声が聴こえた気がしたからだった。

何故か気になったのだ。ぼんやりとした街灯だけが立ち並ぶ路地に、ひっそりと佇むこの書店から聞こえる話し声に。


そおっと顔を覗かせ探るように店内を見渡すと、堆く積まれた雑多な本の間にぼやけた人影が二つ見て取れる。

「ああ助かったよ、これからもよろしく頼むよ」

「毎度ありがとうございました」

やり取りの様子だとやはり営業中のようだ。

恐る恐る店内に入り込むと、初老の男が大事そうに古めいた本を抱きしめて脇を通り過ぎてゆく。

すると、奥のほうの人影が、不意に振り向いてこう問いただした。

「いらっしゃいませ、ゆかさん宵闇堂にようこそ、何かお探しですか?」

「当店では、古今東西あらゆる文(ふみ)を闇に潜めて揃えておりますが」

黒尽くめの端麗な青年が丸眼鏡にかかる前髪をただして、ゆり子に向かって笑いかけた。


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